top of page

CBA日記への投稿をお待ちしています...。

​担当者:森田 秋子・菱川 法和

連絡先:E-mail cbaninchikanren@gmail.com

詳細はこちら

CBA日記

あずまリハビリテーション病院のこと


 名古屋に来て3年目に入った。来た年から、鵜飼リハと兄弟病院のような関係にあるあずまリハビリテーション病院にも、月に1日伺うことにさせていただいている。これまでほぼ毎月、1日6名の失語・高次脳機能障害の患者さまに関わらせていただいた。あずまリハには輝生会から管理者が派遣されており、昨年から来ているOTの小林利行さんは、年は違うが輝生会入職が同期で、気の置けない友人である。そういった影響からか、あずまリハを訪れた日は近所の抜群においしい焼肉屋さんに立ち寄るのがルーティーンになってしまった。

 最近は小林OTの誘導もあるのか、私の臨床にPT、OTも同席してくれる。時に「じゃあ、歩いてみましょうか」ということになっても、対応してもらえる。情報が集まりやすく、問題点が見えやすい。患者さまのいい点も見つけやすい。これからどうしていこうか、という話になったときに、職種別の切れ切れの話に陥ることなく、包括的な方向性を考えやすい。ご家族が参加してくださることもある。このようなあずまリハでの時間に私は熱く燃えてしまい、患者さまとのやり取りにのめり込む。40分の患者さまとの直接的な関りのあと担当者との意見交換。若くて生きのいい熱いセラピストが多いので、またまたここでも盛り上がってしまう。「もう時間ですから、終わってください」と言われることもしばしばである。

 前回伺った際に、心に残った話をお伝えする。自動車運転に関することである。ある軽症の患者様で、若く復職もかかり、ご本人は自動車運転のニーズが高い。よくあることであり、担当PTとSTが真剣に悩んでいる。その方は、麻痺はなく高次脳機能障害は軽症である。ただし、まだ発症から日が浅く、易疲労性が見られる。病識も不十分である。しかし、意外に慎重な発言もある。現状では、医師の判断は当然ながら運転させることはできない。すぐにでも運転できると思っている本人に、どうやって理解してもらうかを考える。回復期でよく見られる光景である。ただ、少し違っていた。

 担当スタッフは、彼が運転できるのかどうかが知りたくてたまらない。もちろん困難だと思うが、もしかしたらできるのではないか、と思う。仮に今は無理でも、3か月先はどうだろう。いや、半年先ならかなり可能性があるのではないか。彼が運転する場面に立ち会ってみたい。どんなリスクがあるのか、その場面で彼はどんな反応をするのか、それを知りたいと思う気持ちが抑えられない。その様子を見ていた私は、思わずほほえましさに頬が緩んでしまった。まさしく、20年くらい前の私と同じ。知りたくて、知りたくて、しかたがない。

 私は、これまで患者さまの運転する車に3度乗る経験をした。それは、今でも大変貴重な経験である。危なくてひやっとする場面もあったし、十分安全だと感じられる場面もあった。リスク管理が強く求められる今日、安直に運転してもらうわけにはいかないので、自動車運転に立ち会う経験をすることはまず難しい。しかし、軽症の患者さまが再び運転するようになる例は決して少なくなく、正しい手続きのもと、ご家族やご本人の同意があれば、セラピストが自動車運転の場面に参加できる機会はあり得るだろう。伴う責任をきちんと果たした上で、「知りたい」と思う気持ちを大切にして、自らのスキルを磨こうとする若いセラピストを、私は応援していきたい。ただの興味本位ではなく、真摯な思いで患者さまに向き合ってほしい。そして真実を「知りたい」と思う気持ちを、これから先も大切にしていってほしい。

 小林OTの担当ケースにも関わらせていただいた。この方は、とても陽気な重度失語症の方であったが、歌を歌った際突然泣き出された。とてもスムーズに声が出て、ご自分でも驚いたのかもしれないし、元気だった頃の自分がよみがえったのかもしれない。いずれにしても、そのあとのすっきりとした表情を拝見し、感情が高ぶったことが彼にとって悪いことではなかったと感じられた。小林OT曰く「あの涙は、自分が引き出したかった…」とのことであったが、あの場面は小林OTの選曲がよかったと思っている。「50代の好む歌」を検索し、探し出してくれた「贈る言葉」。これしかない、というくらいのベストチョイスだった。

 こんなに苦しい病気をし、こんなに辛い思いをしている方々と、どんなに苦しくとも正面から向き合って、苦しさを共有しながら乗り越えていかれる手がかりを見つけ出すために、これからも熱い臨床をしようね、あずまリハのセラピストたち。

最新記事
Archive
タグから検索
bottom of page