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​ディスカッション

本コーナーでは、CBAの運用や点数解釈について、議論していきたいと思います。積極的な投稿をお待ちしています。CBA日記の中で報告のあった事例なども、内容を整理したうえで、今後の議論につなげるために、論点を再提示します。

さまざまな観点からの議論が広がることを期待しています。

FIM認知の考察 -CBAとの共通点と相違点、言語聴覚士の立場から-

森田秋子1)、玉井優子2)、松本羽純3)

1)鵜飼リハビリテーション病院、2)初台リハビリテーション病院、3)船橋市立リハビリテーション病院

1.はじめに

ADL評価表として、Functional Independence Measure(以下FIM)は現在日本で最も汎用されています。平成28年度の診療報酬改定で、回復期リハビリテーション(以下リハ)病棟Ⅰの施設基準取得の条件として、「FIM実績指数27点の確保」が加えられ、それまでBarthel Index(以下BI)を使用してきた病院もFIMに切り替えるようになりました。在宅施設ではまだBIを用いている施設もありますが、回復期リハ病院を系列に持つ施設ではFIMに切り替えていくところが増えているようです

このような状況下、安定してFIMデータを収集することができるようになった施設では、FIMデータを用いた研究活動も盛んです。FIMはADLの評価であり、介助者の介護負担を評価することを目的に作成されています。FIM運動とFIM認知に分かれていますが、共に活動を見て、介護者の視点で評価します。FIM認知は、患者の生活の中の、認知機能に関連する活動や行動を見ます。活動から認知機能を評価する点において、FIM認知とCBAには、共通点がありますが、両者には大きな違いもあります。それぞれを目的に合わせてうまく運用していくために、FIM認知とCBAの共通点と違いを整理し、適切な使用について、考えてみたいと思います。

 

2.FIM認知に見られる特徴

FIMは、介護者の視点からADLを評価することを目的に、評価対象となる具体的行動の例を示し、介護負担度を数値的にしやすいように工夫されています。FIM認知では、「コールを押せない」「約束を守れない」など、どの職種でも比較的見つけやすい具体的な行動例が多く示されています。認知度が高まり、施設を越えて評価結果を共有しやすいことも利点です。

 活動から評価できる高次脳機能障害の視点として、「問題解決」「社会交流」「記憶」の3項目に定め、評価を容易にするために、評価対象を限定して定めており、例えば「問題解決」の項目で、簡単な問題の例として「コールが押せる」、複雑な例として「内服の自己管理」を挙げられる場合などがあります。 例えば、「2回に1回は服薬を忘れる」という患者の行動は、数値的に客観評価することができます。原因分析はあえて行わないため、「この行為の原因が記憶障害によるものなのか、意欲や感情の問題なのか、遂行機能障害によるものか」は問わず、決められたルールに基づいて採点することで誰が行っても同様の結果が得られることを追求しています。

 コミュニケーションの評価では、失語症や構音障害によるやり取りのしにくさは「理解」「表出」の項目で評価しますが、右半球損傷由来の推論、共感障害等をはじめとする状況理解障害では、流暢な発話は保たれるが、多弁で会話内容に整合性がないなどのコミュニケーションにおける課題は、「理解」「表出」では評価しません。空気が読めず、自己中心的な発話が見られる場合には、「問題解決」で減点する、というように決めて評価が行われることが多いようです。

 これらをまとめると、FIMはどの職種でも簡便にADLの評価を行うことを目的に、表面的な活動からなるべくわかりやすく数値を導き出すための評価であり、日常的に見かける行動を、主観を用いずに回数に置きかえて割合から点数を算出できるように工夫されている点に、最大のメリットがあります。難しい解釈を除外し、評価者によって数値が変わってしまわないように配慮されていることを理解して、使用していくことが必要であると言えるでしょう。

 

3.CBAの特徴

 CBAは、FIM認知と同様日常生活行動の観察から評価を行いますが、評価の姿勢は大きく異なっています。FIM認知の特徴が、なるべく数値化しやすい行動を見つけて客観的な数値を導き出すことであったのに対して、CBAでは常にその行動の背景にある原因が何であるかを考えようとします。そのため、全く高次脳機能障害の知識がない人にとっては、容易な評価とは言えず、誰が評価しても同様の結果になることを最優先にしていない評価表であることは、デメリットといえます。しかし、原因分析を行うことにより、アプローチにつながりやすいという点は、最大のメリットでもあります。

「服薬を忘れる」患者のCBAの結果が「感情・意欲4,記憶2,判断2」だったとします。その場合、この患者は「意欲はあるが、記憶力や判断力の低下により服薬を忘れてしまう」と分析でき、記憶、判断への代償を行うことが必要と考えることができます。一方、「感情・意欲2、記憶4、判断3」であれば、服薬忘れへの対応は記憶に働きかけるより、感情・意欲を向上させていくことが必要と考えることができます。

右半球損傷による共感障害がある場合、「感情」の評価で減点します。また共感障害が判断の低下につながっていれば、判断も減点します。その自分に気づいていなければ病識も減点になりますが、自分に生じた変化に気づいていれば、病識の減点は大きくありません。このように、CBAは介助者の視点で行う評価でなく、患者の視点に立って行う評価であることが、CBAの特徴です。

さらにCBAの合計点が、高次脳機能障害の重症度を表せる可能性がある点は、大きなメリットであると感じます。「意識・感情・注意・記憶・判断・病識」の6つの下位項目から成る総合点を、全般的認知機能の重症度と考え、現在複数の活動とCBAの関連を明らかにする研究を行っています。FIM認知も、35点満点中何点か、と考えることで認知機能の大まかな重症度をとらえることができますが、40%がコミュニケーションに関する項目であり、重度失語症のある場合などは低値となりやすく、逆に対人関係に違和感があっても言語機能は良好な場合に高値となるため、総合点を認知機能の点数と見なしにくい場合がある点は、FIM認知のデメリットであると感じます。

行動から原因を推測し評価を行うCBAは、普段こうしたことに慣れない職種にとっては、大変難しい作業になります。FIMに比較し「難しくてつけられない」と言われることは少なくありません。一方で、専門的知識のない看護師や理学療法士の中に、CBAをすぐに習得してよい評価者になる人は少なくありません。今まで自分が感じていたことを発信する方法を持たなかった職種が、重要な情報を発信できるようになる場合があります。真の多職種連携を進めるツールとなる場合もあります。

高次脳機能障害の評価を専門とする作業療法士や言語聴覚士にとっては、慣れてしまえば難しい評価ではありません。わかりやすく行動の分析的評価を行い、噛み砕いた情報を他職種に発信するために、CBAを活用してほしいと思います。

 

4.まとめ

 FIM認知とCBAの最も大きな相違点は、FIM認知は「認知に関わる活動の評価」であり、CBAは「行動観察から行う認知機能の評価」である点と言えます。FIM認知は高次脳機能障害に関する知識が全くない人の間でも汎用できるものであることに、重きが置かれています。どこの施設でも共通に用いるアウトカム評価としては、多くの利点を持っています。

 一方FIM認知に比較すれば、CBAは評価において高次脳機能障害の基礎知識を持っていることが求められます。高次脳機能障害に全く出会ったことのない人には、評価することが難しい場合もあります。しかし、高次脳機能障害に日頃から接している人には、さほど難易度の高い評価ではありません。特に、高次脳機能障害の知識がない人が基礎知識を備えていくために、CBAを評価することが有用であることも少なくありません。

 こうした点を理解して、運用していくことが大切だと思います。高次脳機能障害の正しい理解の促進、高次脳機能障害をめぐるチームアプローチ推進のために、一層CBAが貢献できるよう、さらなる知見を積み重ねていきたいと思います。

CBAフローチャート鵜飼版、一般公開します!!

鵜飼リハビリテーション病院 言語聴覚士 森田秋子

 この間、CBAフローチャートについて議論を重ねてきました。鵜飼リハビリテーション病院CBA普及活動ワーキンググループでは、「CBAフローチャート鵜飼版」試案を作成し、多方面の方々に使用していただきながら、ご意見を収集してきました。その結果、フローチャートへの高い評価をいただきました。CBAを広く使用していただくためには、「フローチャートの一般公開が必要」と判断し、当サイトにてダウンロードできるようにしました。

 

 「CBAフローチャート鵜飼版」は、評価の視点や段階基準については、オリジナル版からの変更はありません。もともとのCBAの段階評価を視覚的に援助しながら、評価しやすくすることを目的に作成しています。最大の特徴は、すべての領域で「4・5点」は、「明らかな問題なし」、「1・2・3点」は「明らかな問題あり」として、まずは2段階に分け、そのあとさらに細かく段階評価するように誘導している点にあります。

 高次脳機能障害にあまり知識がなく、難しい用語に理解が進まずCBAを使用しにくいと感じていた人々にも、抵抗感なく使用していただくために、まずは大まかな重症度を見分けられることを重要視しています。

 

 これまで、採点の具体例は示してきませんでしたが、従来「つけにくい」と言われていた項目(注意、記憶、判断)に、一部具体例を書き加えました。看護師、介護士、理学療法士などの職種の人にとって、「つけやすい」と感じられる評価となることに主眼をおいています。

 今回提示したフローチャートは、これで完成版とは考えておらず、広く使用していただきながら、また必要な改良を行うつもりでいます。どうぞ、多くの方からのご意見をいただきたいと考えています。よろしくお願いします。

通所介護の現場におけるCBAの拡大的運用

(株)ツクイ デイサービス第二推進本部 管理運営部 言語聴覚士 芦田彩

 通所介護の現場で働いている言語聴覚士、芦田と申します。

 以前の職場で、CBA開発者の森田さんと一緒に働いていた経緯から、現在も高次脳機能障害のスクリーニングにCBAを使用しています。職場のスタッフから「MMSEやHDS-Rを行ってもよくわからない、本人の状態を把握できる良い方法はないか」と相談を受けることがあり、CBAを紹介してきました。しかし、介護職から「CBAは有用だと思うが、評価に専門用語が多くて難しい」という声が聞かれることが多く、十分な汎用に至りませんでした。

 そこで、CBAをよりわかりやすく活用してもらうために、評価段階に該当する方の具体的な状態の例示を行うことを試みました。また、アプローチにつながる内容を教えてほしい、という声が多く、「このような状態の方には、このようなリハを行うとよい」という例についても書き加えました。それらをわかりやすいフローチャートにしてみました。

 このフローチャートの試用的運用を開始して、現在半年ほど経過しました。その結果、営業所では介護職間の共通言語が増え、認知症や高次脳機能障害の方に対するアプローチが行いやすくなったという声があがっています。ケアマネジャーからは、通所介護での実際のご様子を伝える際に、イメージを伝えやすくなり、ご自宅での様子との違いや、介護保険の認定調査や介護保険の区分変更の際の情報提供時のコメントがしやすくなり、ケアマネジャーや関係機関に非常に喜ばれているという話が出ています。

 営業所として、今後も使用したいと考えており、また当グループの他の事業所でも活用したいという意見があがるようになり、この評価チャートの使用について、CBA開発者の森田さんに正式に許可を得る必要があると考え、今回ご連絡をさせていただきました。

 当組織で用いているフローチャートの使用に関しまして、率直なご意見を賜りますようお願いいたします。

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