Q:①近時記憶・展望記憶が損なわれている場合、遠隔記憶・意味記憶・手続き記憶が保たれていても最重度と考えるのですか ②失語症者では、近時記憶や展望記憶が評価しにくいことがありますが、どこを視点に評価するのがいいでしょうか
(解答者:金井 香)
A:①CBAの記憶では、エピソード記憶と予定記憶とを評価します。それ以外の記憶が保たれている場合にも、評価には反映させないことが基本となります。
②エピソード記憶の成立には、時間系列や、場所情報、その体験をほかでもない自分自身がしたという自己体験感の想起が必要です。さて、こうした記憶能力がきちんと機能しているかどうかは、言葉が伝わらないとわからないものかというと、そんなことはありません。注意深い観察が必要です。たとえば、患者さんは、あなたの顔とリハビリの内容とを把握しているようですか?主治医が誰か顔を見てわかっていますか?出された宿題を、忘れずにやってきてくれますか?いつも同じ時間に同じ人がリハビリにくるとして、準備して待っている様子がありますか?評価の機会をただ待つのではなく、こちらから仕掛けてもかまいません。むしろ積極的にそうすべきです。たとえば、リハビリの時に患者さんの荷物をお預かりし、一緒に確認しながらも、患者さんが座っている場所からはパッと見て目につかない場所に置いておきます。リハ終了時に、あなたがすっかり忘れた振りをして部屋から送り出そうとしたとき、患者さんが思い出して催促するかを待ちます。どこに置いたか場所を同定できるかも確認しましょう。・・・と、このように、RBMTを応用した状況を作り出して、想起が可能か確認することもできるはずです。創意工夫が大切です。
Q:認知症の方にCBAを用いて評価する際に注意することはありますか
(解答者:金井 香)
A CBAを用いて認知症の方を評価することは有効です。特に軽症の場合は、問題なく使用できるのではないかと思います。しかし、「高次脳機能障害」と比較すると質の異なる注意点が二つあり、考慮が必要です。
① 認知症で出現しやすいいわゆるBPSDの評価は、CBAでは十分におこなえません。たとえば、妄想や、作話です。これらを単純に記憶障害でくくるのは誤っています。幻覚や失認、記憶錯誤、注意障害、見当識障害、退行性、固執性など複数の要因が関係していると考えられます。既存のBPSDに関する評価バッテリーなどを合わせて用い、対象となる問題行動が誘発される原因分析作業を行うことが必要です。
② CBAは階層性モデルを根幹に作成してあります。「認知症」であるということは、複数の高次脳機能が機能不全を起こしている状態と考えられます。そこには機能低下だけでなく、機能亢進による異常がふくまれています。高次脳機能を考えるうえでも、各認知能力間の「相互作用」という考え方が重要ですが、認知症を考える場合にはより重要になってきます。相互作用はマイナス要因にも考えられますが、プラス要因になる可能性があります。例えば「妄想」は問題行動ですが、単なる低下ではなく「感情」や「思考」などの残された機能が亢進した状態と考えることができます。機能亢進して暴走している能力を安定させ、落ち着いて機能させられることができた場合には、プラスに働くと考えられるかもしれません。ここから先は対応がテーマになってきます。皆さんにも考えてみていただきたいと思います。
Q:「神経心理ピラミッド」と「山鳥の認知行動モデル」のメリット・デメリットを教えてください。
(解答者:森田秋子)
A:CBAは、神経心理ピラミッド(立神)と、認知行動モデル(山鳥)の考え方を基本として作成しました。
神経心理ピラミッドは、認知機能を全般的にとらえる上で大変優れています。認知機能にはいくつかの領域があるが、それらは独立したものではなく流動的、循環的に関わり合っており、かつ緩やかな階層性を成している、ととらえています。発症直後の通過症候群の回復を考える上では、特にわかりやすいと感じています。
山鳥モデルは、全般症状と個別症状の関係を考える上で、大変役に立ちます。高次脳機能障害といえば、「失語、失行、失認」だと考えている人に山鳥モデルを見てもらうことで、高次脳機能障害の全容を理解してもらうことができます。個別症状は大事ですが、それだけでは人の行動を説明することができません。
基盤的認知能力が落ちている人に個別機能に特化したリハをしても有効でなく、まずは基盤的認知能力をあげていくことが重要であること、社会復帰を目指した最終段階では、環境適応を進めていくために統合的認知能力が重要であること、などリハを進める上での基本的な考え方を、このモデルを用いて説明することができます。
モデルは臨床をうまく進めていくために上手に使いましょう。事例によってうまく説明できるモデルが異なることもあります。自分が感じていることを明確にするために、人にうまく伝えるために、モデルをうまく使用できるといいと思います。
Q:在宅リハに関わっています。ご家族に一緒にCBAをつけてもらってはどうかと考えていますが、いいでしょうか。
(解答者:金井香)
A:対象者がすでに生活期にある場合、ご家族からの情報はもっとも重要です。一緒にCBAをつけていくのが望ましいと考えます。
注意すべき点が2つあります。
①通常のケースでは、ご家族には、認知能力についての専門的知識がありません。その場合、評価者の質問力が有用な情報を得るために欠かせません。ある認知能力の低下が、日常生活ではどのように行動に反映されるのかを予測して、ひっかけた質問をすることも有効です。「たとえばこういう時にはどうですか?」といった具体例を的確に提示することで、ご家族の方が「ああ、そういえば…」と思い出したり、気づいたりできることがあります。これが評価の鍵です。一つの場面だけで安易に評価せずに、類似状況で同じ認知能力の低下に基づく失敗がないか連鎖して考え、複数場面の情報から評価しますと、よりうまく評価できます。
②ご家族からの情報には、家族だからこそ持ちうる主観が色濃く反映しています。評価者は否定せずに率直に受け止めたいものです。そのうえで情報を整理し、ターゲットとなる認知能力が正常から軽度低下の範囲内におさまるのか、より深刻な低下があるのかを分析し、CBAを用いてご家族に説明することができます。ご家族は「もともとそういう人だった」「そういう性格なんです」とおっしゃることがあります。「そういう性格」が、現在みられるような問題行動をひきおこし、社会に適応することが難しく、他者からの積極的な援助が必要なほど深刻な障害を引き起こすかどうか、を見極めていきます。性格の特徴は病前と共通する面があったとしても、病前には生じていなかった問題が生じていることは多く経験します。CBAは結果が点数表示されますが、各能力のバランスを意識して作成してあります。自分では解決できないほど深刻な問題行動を引き起こす事態になった背景には、認知能力間のバランスの崩れが隠れていることがあるので、そうした問題も見つけていきましょう。
Q:「性格」と認知機能にはどのような関係がありますか。
(解説者:金井香)
A:よく聞かれる質問です。わたしは、逆に質問するようにしています。『では、性格とは、どの器官の働きで成立しているものですか?』答えはたいてい「脳」です。
ある心理学の教科書には「情意的行動の個体差」として「性格」という用語が使われると説明されています。人の行動は、「知的側面と情意的側面の働き全体を通じて生じる」結果であると言うことができます。一般に「性格」という言葉を使う際は、ある事態に対しその人がどのような態度をとるか、ある事象に対しその人の好き嫌いの判断はどうか・・といったことから、他者が、カテゴライズ化して「性格なるもの」を表現します。したがって、そこにはすでに「認知能力」が関与しています。脳の働きからきれいに「性格」に関わる機能を取り出して認知能力だけ評価するということはありえないのです。