​ディスカッション

本コーナーでは、CBAの運用や点数解釈について、議論していきたいと思います。積極的な投稿をお待ちしています。CBA日記の中で報告のあった事例なども、内容を整理したうえで、今後の議論につなげるために、論点を再提示します。

さまざまな観点からの議論が広がることを期待しています。

CBAフローチャート鵜飼版、一般公開します!!

鵜飼リハビリテーション病院 言語聴覚士 森田秋子

 この間、CBAフローチャートについて議論を重ねてきました。鵜飼リハビリテーション病院CBA普及活動ワーキンググループでは、「CBAフローチャート鵜飼版」試案を作成し、多方面の方々に使用していただきながら、ご意見を収集してきました。その結果、フローチャートへの高い評価をいただきました。CBAを広く使用していただくためには、「フローチャートの一般公開が必要」と判断し、当サイトにてダウンロードできるようにしました。

 

 「CBAフローチャート鵜飼版」は、評価の視点や段階基準については、オリジナル版からの変更はありません。もともとのCBAの段階評価を視覚的に援助しながら、評価しやすくすることを目的に作成しています。最大の特徴は、すべての領域で「4・5点」は、「明らかな問題なし」、「1・2・3点」は「明らかな問題あり」として、まずは2段階に分け、そのあとさらに細かく段階評価するように誘導している点にあります。

 高次脳機能障害にあまり知識がなく、難しい用語に理解が進まずCBAを使用しにくいと感じていた人々にも、抵抗感なく使用していただくために、まずは大まかな重症度を見分けられることを重要視しています。

 

 これまで、採点の具体例は示してきませんでしたが、従来「つけにくい」と言われていた項目(注意、記憶、判断)に、一部具体例を書き加えました。看護師、介護士、理学療法士などの職種の人にとって、「つけやすい」と感じられる評価となることに主眼をおいています。

 今回提示したフローチャートは、これで完成版とは考えておらず、広く使用していただきながら、また必要な改良を行うつもりでいます。どうぞ、多くの方からのご意見をいただきたいと考えています。よろしくお願いします。

通所介護の現場におけるCBAの拡大的運用

(株)ツクイ デイサービス第二推進本部 管理運営部 言語聴覚士 芦田彩

 通所介護の現場で働いている言語聴覚士、芦田と申します。

 以前の職場で、CBA開発者の森田さんと一緒に働いていた経緯から、現在も高次脳機能障害のスクリーニングにCBAを使用しています。職場のスタッフから「MMSEやHDS-Rを行ってもよくわからない、本人の状態を把握できる良い方法はないか」と相談を受けることがあり、CBAを紹介してきました。しかし、介護職から「CBAは有用だと思うが、評価に専門用語が多くて難しい」という声が聞かれることが多く、十分な汎用に至りませんでした。

 そこで、CBAをよりわかりやすく活用してもらうために、評価段階に該当する方の具体的な状態の例示を行うことを試みました。また、アプローチにつながる内容を教えてほしい、という声が多く、「このような状態の方には、このようなリハを行うとよい」という例についても書き加えました。それらをわかりやすいフローチャートにしてみました。

 このフローチャートの試用的運用を開始して、現在半年ほど経過しました。その結果、営業所では介護職間の共通言語が増え、認知症や高次脳機能障害の方に対するアプローチが行いやすくなったという声があがっています。ケアマネジャーからは、通所介護での実際のご様子を伝える際に、イメージを伝えやすくなり、ご自宅での様子との違いや、介護保険の認定調査や介護保険の区分変更の際の情報提供時のコメントがしやすくなり、ケアマネジャーや関係機関に非常に喜ばれているという話が出ています。

 営業所として、今後も使用したいと考えており、また当グループの他の事業所でも活用したいという意見があがるようになり、この評価チャートの使用について、CBA開発者の森田さんに正式に許可を得る必要があると考え、今回ご連絡をさせていただきました。

 当組織で用いているフローチャートの使用に関しまして、率直なご意見を賜りますようお願いいたします。

ツクイデイサービス式CBAフローチャートを拝見して

伊勢崎福島病院 言語聴覚士 金井 香

 まずは、CBAをここまで読み込み、よく考えてフローチャートを作成してくださった芦田さんに、心から敬意を表し、感謝したいと思います。
 しかし、以下の点で課題を感じますので、検討してほしいと思います。
①フローチャートの中で、「問題が生じている」「いない」で分ける箇所があります。
 この場合の「問題」が、その項目が影響しての問題なのか、まずどのように判断しているかがあいまいです。

②具体的な行動例のいくつかが、明確に区別されていない内容であり、CBA作成者が意図した状態と異なっていると考えられるものが含まれています。
③訓練内容・・これが大変難しい問題です。CBAはおもには、回復期の患者さんを想定しています。もちろん維持期に適用不可能なわけではありませんが、このステージにある方の場合、「状態」=「障害」や「症状」というより、「環境」との複合作用によりその「状態」を呈していることが考えられるため、対応はより柔軟である必要があります。この時期のアプローチは統制しにくいと思います。これを「CBA]の括りの中に組み込むべきではないと、個人的には考えますが、引き続き皆さんでの議論の件族が必要であると思います。

ツクイデイサービス式CBAフローチャートに対するCBA作成者の見解

鵜飼リハビリテーション病院 言語聴覚士 森田秋子

 力作のフローチャートを送ってくださった芦田彩さんに、心から感謝したいと思います。また、早速意見をくださったCBA共同開発者の金井さんにも、お礼を申し上げたいと思います。

 

 私としては、芦田さんのような試みを「どんどんやってほしい!」と考えています。金井さんが述べている通り、芦田さんのフローチャートはCBAを足掛かりにして作成されていますが、いくつかの拡大理解や一部の限局された場面での例と感じられるものを含んでいます。

 私もCBA開発の途中で、例示を入れてほしいという声を多くいただき、試みたこともあります。しかし、CBAを使うための例示を偏りなく示すことには現状では限界があり、また例示をあげることで「この場面を見なさい」と誘導してしまうことにつながり、検査者自身が自由に行動観察を行い、評価を実施するというCBA最大のメリットを制限してしまうことになると考え、あえて例示を行わなかった、という経緯があります。

 ただ、芦田さんの試みはご自分の所属する施設という限定された範囲の中で、現状でCBAをよりわかりやすく使用するためのトライですので、大変意義のあることと思います。「ぜひやっていただきたい」というのが、私の素直な気持ちです。使用してみての結果に対しても、大変興味があります。

 私がCBAを作成したもっとも大きな目的は、高次脳機能障害の理解の普及です。金井さんのご指摘通り、芦田さんが作成したフローチャートの中には症状の原因と結果についての記載があいまいで、誤った理解をされる可能性があり、そのことについてあらかじめ発言しておきたい、という気持ちはあります。しかし、そのために使用を制限してほしいとう気持ちはありません。このフローチャートをどんどん使用していただき、まずは多くの人にCBAの理解を深めていただくこおtには、作成者としてむしろありがたい、という気持ちを感じます。行動やアプローチの例示に対して、ディスカッションを継続し、修正を加える必要が出てくればフローチャートの改定を行ってほしいと思います。そうすることでさらに発展します。

 ともかくこの領域には、今議論が必要です。どのような形でも、まずはCBAを使っていただきたいと強く願っています。その上で。議論を進め、より深くより正確に、CBAの運用を考えていかれれば、これ以上嬉しいことはありません。

 「CBAの用語は難しくてわからない」という声は多く、できればもっとわかりやすくしてもらって使いたい、という意見に出会うことは少なくありません。その意味で、今回の芦田さんの試みに興味関心を示す人は、決して少なくないと思います。そういう人々を巻き込んで、さらに議論を続けましょう。多様なトライをしていただき、印象や主観でなく、データを示していきましょう。そして、この領域の発展を目指していきましょう。

 今後ともディスカッションを継続し、多くの方に高次脳機能障害を理解してもらうために、CBAが役に立てることを願い、引き続き努力していきたいと思います。

CBA書籍出版を振り返って ―いただいたご意見を吟味しながら―

 書籍「日常生活から高次脳機能障害を理解する、認知関連行動アセスメント(CBA)」を発行して、4か月が経過した。その間、さまざまな施設、団体に声をかけていただきCBAについて話をする機会があり、多くの共感を得ることができた。一方で、CBAの難しさや課題についても議論する機会が多かった。このあたりでそれらを振り返り、今後のCBA普及活動の指針を明確にしていくことが必要であると感じている。考察が不十分な点もあるが、考えをまとめてみることとする。

 

 今後のCBA普及活動の前提として、常にいただいたご意見に対し、それが批判であっても、いや批判であればこそ一層謙虚に耳を傾け、真摯に向き合うことを大切にしていくことにする。CBAの限界を意識して向き合いながら、それでもCBAが持っている価値について理解を深めることを目指す。

 

1. そもそも、高次脳機能障害は難しい

 

 CBAを作成した直後から、「誰にでも簡便に使える高次脳機能障害の評価」を歌い文句にしたいと考えたが、そこに疑問を感じるという意見をいただくことが多かった。すなわち、「CBAは容易にはつけられない」「そもそも、高次脳機能障害は難しい」ということである。

 CBAの説明にあたり、「高次脳機能障害は難しく、簡単に理解することはできない」という事実から逃げず、明示していくことが重要であると感じさせられた。作業療法士や言語聴覚士が、そのチームで高次脳機能障害の評価を担当するのであれば、かなり勉強しなければできないことを認識する必要がある。高次脳機能障害の専門家ではないが、日常的に高次脳機能障害者に接する看護師、介護士、理学療法士などの職種であっても、魔法の杖のように、一振りすれば高次脳機能障害の種類や重症度を簡単に判別してくれる便利なツールなど、ありはしないことを、あらかじめ伝えなければならない。

 高次脳機能障害を学びたいのであれば、「高次脳機能障害を本気で理解したい」と思う気持ち、「高次脳機能障害を持つ患者さんを正しく理解したい」と思う気持ちが、学びのスタートであることを理解してもらうことが大切である。

 

2.「CBAは難しい」ということから逃げない

 

 CBAは、説明を受けたときはわかったような気がするが、実際に一人でつけてみると、難しくてとてもつけられない、あるいは曖昧になって自信が持てず、つける意味がわからなくなる、というご意見を聞くことが多い。「簡単につけられる、というから使ってみようと思ったのに」と言われて、困ることがある。そもそも初めから「CBAをつけるのは、難しい」というところからスタートした方がよさそうだ。

 看護師や理学療法士にとって、高次脳機能障害に関する難しい知識を身につけるより、基本的な視点を持つことが有効であることを、CBAは提案する。これは経験の浅い作業療法士や言語聴覚士も同じである。学校でならった知識だけではなかなか患者さんをとらえられないとき、初心に帰って基本的な視点を自分の中に置くことで、障害はずっととらえやすくなる。

 

 CBAは、注意や判断の項目はやや難しいが、誰が評価しても概ね同じような点数が出ることが確認されている。しかし、つけていても「これで正しい、という実感がせず、あてずっぽうになっている」と感じ、納得感を持てない、という意見を聞くことも多い。残念ながら、CBAは1回や2回使っても使えるようにならない。

 CBAに魅力を感じた個人が、個人的にCBAを用いることには問題も生じないが、ある組織で高次脳機能障害の評価として統一して用いるのは、容易ではない。現在、いくつかの施設でCBAの導入を試みてくださっている。筆者が所属する鵜飼リハビリテーション病院においても、2年続けてリハビリテーション部の方針にあげ、担当委員を中心に力を入れて取り組んでいるが、結論を先に言えば「山あり谷あり」の困難な道のりの連続である。自分でやりながらそう思うので、他の施設においても同様だろうと推測している。当院での取り組みの話は、後述する。

 

 先日、毎年高次脳機能障害の講義を担当している理学療法士の専門学校で、CBAの話をしたときの学生の意見を紹介する。「CBAの説明を聞いた時には、難しくてわからないと感じたが、そのあと具体的な事例を用いて各項目の評価のポイントと得点を聞いた時には、よくわかる気がした」というものだった。「説明されるとわかる」という意見はこれまでにも聞くことがあり、CBAのよくない点であると感じていた。しかし、今回はそうでないと思えた。いろいろいわれて「ああそうか」と大まかにわかる、というのは、CBAの利点ではないか、と思ったのだ。高次脳機能障害者に接したことのない学生が、用語や定義だけを聞いても障害像がよくわからないが、事例を用いてあれこれ説明するうちに、何となく「高次脳機能障害ってこういうものなんだ」という気持ちになる。「高次脳機能障害がわかる」というのは、「このような感じ」なのではないか、と感じたのである。

 

3.高次脳機能障害の評価が、CBAだけでいいわけではない

 

 高次脳機能障害をきちんと勉強している専門職に対し、「CBAを用いて、高次脳機能障害をお手軽に評価しましょう」というような印象を与えると、強い批判を受けることがある。この点は反省させられた。最初に戻るが、そもそも高次脳機能障害は難しいのである。CBAを用いることで、高次脳機能障害を担当する専門職が高次脳機能障害を正しく理解できなくなる、という危惧は、筆者自身も感じている。高次脳機能障害を、こんなに単純に処理してしまっていいわけではない、という点を、しっかりと断って置くことが必要であった。

 

 CBAは、きわめてざっくりとした高次脳機能障害のスクリーニング検査である。

 筆者が実際にどのようにCBAを用いているか、を述べる。初めて会った患者さんにインテークの会話を行いながら、記憶、見当識、今の自分をどう感じているかを探っていく。会話をしながら、さっとCBAを評価して合計をf出す。15点、20点、24点、というように数値を出してみる。その次に、すでに実施していればMMSE(失語症者であればRCPM)の得点を確認する。この2つの数値が概ね対応すれば、そのままその方の高次脳機能障害の重症度と考える。

 例えば、CBA、25点、MMSE、27点であれば、良好レベル。CBA、18点、MMSE、21点であれば、中等度レベル。ところが、CBAを18点とつけたが、MMSEは28点、などのように、結果が食い違いを示すことがある。このような得点を示す多くの場合、記憶や言語機能は保たれるが、感情抑制や病識に明らかな課題があるケースである。この場合、MMSEが高値であっても、高次脳機能障害の重症度は良好でも軽度でもなく、中等度と考えるべきである。

 また、あくまでCBAは高次脳機能障害の全般症状の評価であり、個別症状の評価ではないので、臨床的に頻回に認める半側空間無視や失行、あるいは出会うことは多くはないが視覚失認、地誌的失見当などの個別症状を見つけ出し、精査して報告、対処することは、高次脳機能障害を担当する専門職として、重要な仕事である。

 作業療法士や言語聴覚士であれば、CBAを、高次脳機能障害を評価するたくさんのツールの1つでしかない。高次脳機能障害を専門としない職種であれば、高次脳機能障害を理解し、ディスカッションに参加するために、CBAには優れている点があるので、専門知識がなくても高次脳機能障害を語るためのツールというように考えるといいと思う。

 気をつけておきたいのは、高次脳機能障害は誰が評価しても誰が語ってもいいということだ。作業療法士や言語聴覚士だけが評価し、対処方法を提案できるというわけではない。専門知識のない職種が、もっとも良質な情報を持っていることもあるし、適切な関りのポイントを理解していることもある。作業療法士や言語聴覚士が心がけることは、専門知識のない職種にわかりやすく専門評価の結果を伝え、関り方の議論にすべての職種を招き入れることである。

 

4.CBAを用いる利点

 

 この半年、CBAを使用することがとても有効だと感じたのは、当院2年次研修の報告会の際だった。2年次研修では、入職2年目のスタッフに1年目に担当した患者さんのお宅へ、退院半年あるいは1年程度経過した後訪問させていただき、退院後の経過をまとめ、長期的な変化を学ぶ。回復期リハ病棟は入院期間が短くなり、「軽度低下」の状態で帰られた方が、その後「良好」な状態に回復される例は少なくない。たった1度の短い訪問でMMSEなどを再検査することは困難だが、CBAは数時間の関りと家族や訪問スタッフから得られる情報などから、採点することができる。

 最初の頃は、口をすっぱくして研修参加者に、「CBAを評価すること!」と繰り返し、難しい場合は一緒に評価を行ったが、最近の報告会では何も言わなくてもCBAの結果が記載されている。それぞれの方の重症度と退院後の変化がわかりやすく、便利である。在宅復帰後の「気持ちが明るくなる」「自信がつく」などによる認知機能の活性化をCBAは拾うので、生活力の改善を実感しやすい。

 患者の全体像をつかむために手軽に認知機能をとらえるには、CBAは大変適している。詳細な評価を行いにくい場面、専門とする職種がいない場面で、高次脳機能障害を含めた全体像の評価を行うために威力を発揮できる評価であることを、改めて感じることが多かった。

 

5.当院における取組

 

 当院での「CBA普及に向けた取り組み」は、今年度はセラピストを対象として行っているが、最初の急激な登り道を越え、少しなだらかな坂道に差し掛かり、今ようやく5合目といったところか。開始当初は、全員がやらされることに対する抵抗感も感じたし。取り組みの意図もよくわからないと感じたスタッフも、多かったことと思う。中途半端に遠慮しながら進めても効果は出ないと思っていたので、かなり強引に進めることになった。

 今年度は、各階のPT・OT・STに担当委員を置き、すべてのスタッフに実際に担当ケースの評価を行ってもらい、委員から丁寧な指導とフィードバックを行っている。その結果、「CBAを用いて高次脳機能障害の重症度の評価が行えるようになった」と答えたスタッフは、PTで50%、OT60%、ST85%になった。(PTの50%は、かなりいい数字だととらえている。)

 CBAは、どうも得意下手がある。PTであっても、すぐにポイントを理解し使いこなす人もいれば、なかなかピンとこない人もいる。1つ言えることは、入職直後から知ってもらうことが重要である。セラピストになった初めから、高次脳機能障害をみることが自分にとって「当たり前」としてしまうこと。基本的な用語を使うことや、表情を観察することなどに慣れてしまうこと。当たり前に多職種と高次脳機能障害を含めて議論を行うこと。高次脳機能障害を、青年になってから習う第2外国語ではなく、幼少時から慣れ親しんだ母国語にしてしまうことが、どうも重要である。

 

6.まとめ

 

 この数か月にわたり考えてきたことを書いてみたが、まだまだ十分に考えられていない点が多いと感じた。

 明らかなことは、率直な議論を積み重ねることが重要であり、必要であるということである。CBAは現在進行形である。よい評価表となるのか、価値の低い評価表となるか、その答えはこれからの取り組みによると考えている。

 振り返りの考察を書けるように、引き続き日々の臨床やスタッフ指導において、真摯な気持ちで取り組んでいきたい。

CBAの得点の能力の関係―特に在宅復帰に必要なレベルについて―

伊藤 梓(鵜飼リハビリテーション病院 言語聴覚士)

目的:CBA得点と日常場面での能力の関係について、回復期リハ退院後に独居を目指した事例を通じて検討する。

事例:70代後半、女性、もともと独居。脳梗塞により高次脳機能障害を呈した。運動麻痺はなく、屋内ADLはほとんど問題なく自立。しかし、独居に必要な注意、記憶、判断に不確実な点があり、退院先の決定委際し今後の独居が可能かどうか議論になった。担当STはCBAを24点と評価した。

 鵜飼リハビリテーション病院では、蓄積したデータからADLに必要なCBAの得点について、屋外自立27点、屋内自立24点、セルフケア自立21点、という結果を導き出し、1つの目安としている(佐藤さんの研究発表)。年齢、運動機能の重症度などは考慮できておらず今後の課題であるが、判断の基準として一定の有効性があると考えている。本事例は24点であり、屋内歩行は可能だが屋外歩行は難しい可能性がある。退院後に想定される生活では屋外歩行も必要であったため、CBA24点で大丈夫なのか、という議論になった。

担当STは、自宅での1人暮らしが可能であると判断した。その根拠として、屋外練習で道に迷いかけたときに、何とか自力で目的地到着できたこと、迷っても人に尋ねる力があること、以上から比較的良好な環境適応力があると判断されること、また回復が続いていて退院後に改善が継続することが見込めること、協力してくれる支援者がいたこと、などの好条件があり、それらの情報を合わせて総合的に、1人暮らし可能と判断できると考えた。さらに、介護保険サービスの利用によって考えられるリスクに対処できることについても確認した。

 

考察:回復期リハ病棟において退院後の独居性について判断しなければならない機会は少なくなく、さまざまな観点から可否の可能性を検討していくことが求められる。その際、CBAの得点による行動基準を参考地として用い、判断していくことは有効であると考えられる。一方で、能力ぎりぎりであっても、あるいはリスクがゼロではなくても自宅退院を考えてくことも、実践現場においてはよくあることである。その場合、公的サービスや地域力等を含む環境調整、あるいは患者の能力向上などに取り組むことが重要なポイントとなると考えられた。

 この問題について、引き続き事例を重ねながら検討していく必要がある。また、実際の退院後の情報を集め、判断の是非を振り返っていくことも重要であり、今後の課題である。

重度失語事例への描画能力向上の取り組み―認知機能の観点からの検討―

森田 秋子(鵜飼リハビリテーション病院 言語聴覚士)

目的:訪問STにて、重度失語症事例に対し描画能力向上をコミュニケーション拡大につなげるアプローチを行った。本事例の成果を認知機能の観点から検討する。

事例:70代男性。脳出血により中等度右片麻痺、重度失語症を呈し、回復期リハ病院を退院後、通所リハを利用していた。理解・発語とも重度に低下し、妻とのコミュニケーションは、指さし、頷きなどの簡単な身振りによるものに限られ、妻もやり取りを行うことをあきらめている状態であった。

 本事例は、他者への配慮ができるなど良い点もある一方で、できる動作も自分でやろうとせず妻に依存しており、1日テレビを見て過ごすだけの生活になっていた。レーブン色彩マトリックス検査では30/36点と高得点をあげることができ、認知機能の評価が難しかった。抑うつ的な状態は特に散見されなかったことから、抑うつに伴う生活状態の低下ではなく、視覚的類推能力に限局して高い能力を有しているものの、脳活動全体は低下し自発性自律性の低下した状態を呈していると考えた。担当STは本事例のCBAを20点と評価、中等度の認知機能低下と判断した。

 この事例に簡単な絵の模写をしてもらうと、拒否もなく何だか判別できる絵を描くことができた。そこで、まずは模写力の強化、続いてPACEというリハ手法を用いて、自分の描いた絵が何であるか相手に伝える練習を行った。「絵を描いて伝える」ということを理解するのに2か月程度要したが、布団の絵を描いて伝わらなかったとき、人の頭を書き加えることにより伝えることができるなど、描くことで伝わる経験を重ね、リハ場面でコミュニケーションの成立につながった。妻は紙と鉛筆を用意し、描画しやすい状況を作った。その後、テレビで旅行番組を見たとき、病前旅行を予定していた場所の地図と地名を書き、妻に示すなど、日常生活場面で自発的に描画をコミュニケーションに用いることが出現した。こうした様子は、ときどき見られるにとどまり、最終的に描画を用いて十分な日常コミュニケーションが成立できるレベルには至らなかった。しかし、ときおり情報の一部を伝えられる場面が出現し、妻はその変化を喜んだ。

考察:重度失語症事例に対し、描画能力の向上にアプローチすることは少なくない。重度認知機能低下を呈す事例の場合、模写が可能になっても、それをコミュニケーションにつなげられない場合がほとんどである。患者が「伝えること・伝わること」を理解することが難しいことによると考えられる。一方、認知機能が良好な場合、模写が可能になると一気に自力で実用的コミュニケーションへつなげていく例が多く、数か月に及ぶコミュニケーションリハを必要としないことが多い。

 本事例は、CBAは20点であり、中等度の認知機能低下を呈していた。描画能力を有したが、自力でコミュニケーション拡大につなげることはなかった。ていねいに段階を追ったリハビリテーションに基づきアプローチした結果、一部自発的なコミュニケーションにつなげることが可能になった。重度失語症者へのリハビリテーションの目標設定とプログラム立案を行う上で、認知機能に着目することが重要である。描画には、全般的認知機能だけではなく、失行、構成能力、イメージ能力、描画の心得など複合的な要因が関与するが、それら能力を駆使し能力向上を目指すうえで、患者の残存応力を的確に把握することが重要である。特に中等度認知機能低下を示す患者群は、適切なリハビリテーションによって行動変容を導ける可能性があり、認知機能の的確な評価が重要である。

回復期リハ病院退院後の能力向上について-高齢骨折事例を通じて-

森田 秋子(鵜飼リハビリテーション病院 言語聴覚士)

目的:回復期リハ病院退院後1年経過した事例を訪問同行し、能力調査を行った。この事例のCBA評価を通じて、CBAが測定しているものが何であるのかを検討した。

事例:80代、大腿骨頸部骨折後。回復期で屋内ADL自立し独居生活の自宅へと退院となったが、退院時には独居可能かどうか難しい判断をせまられる事例であった。認知面はMMSE23点、CBA23点、ふらつきがあり屋外行動は十分に自立とはいえないが、1人で買い物に行くことが必要であった。介護保険サービスを調整し、何かあれば設定の変更を考えなければならないことも視野に入れての退院となった。

 1年後の訪問調査時、事例の状況は改善していた。タクシーを使いスーパーへ買い物に行くが、特に問題を生じることはなく無事に過ごしていた。地域の人とは病前から親しいコミュニティを作っており、その付き合いも病前と変わっていなかった。入院中のやや不穏な状態は認められなくなり、日々の生活を計画的に、生き生きと生活されていた。訪問同行したPTは、この時点のCBAを退院時と比較し「感情と、注意と、判断が1点ずつあがって、合計26点」と評価した。本事例は入院中に問題行動があったが、中身は「他患者さまにお菓子を配る」ということであった。禁止しても続行されたということで、判断力は十分でなかったと評価した。しかし、このエピソードはこの方の他者と関わる力が高いことを示している。この力は、退院後の生活において発揮されていた。

考察:この方の認知機能について考察する。元気に一人暮らしをされていた高齢者が、骨折により入院し臥床生活を余儀なくされ、気分がふさぎこみ、見当識が不確実になっていたことが推測される。気持ちが落ち込み、的確に判断できなくなり、注意力が低下し骨折後の身体を駆使できず、転倒リスクが生じた状況も推測される。この時期は不可逆的な認知機能低下が進行していたわけではなく、MCI(軽度認知機能障害)の状態と考えられる。高齢者の場合、この状態から認知症へと進んでしまうことは少なくないが、正常に戻る場合もあるとされる。

 この方の場合、退院後生活に前向きな姿勢で取り組むことにより、気持ちの充実、計画的で慎重な生活の実践を通じての行動の確実性を向上させることができた。地域社旗での他者との交流を通じ、孤立感に落ち込むこともなく、意欲的な生活を維持することが可能であった。その中で、感情の活性化、注意力の向上、適切な判断力の回復がみられた。これらの評価は、MMSEやCAT、WAISなどの認知神経心理学的検査を実施して得られたものではない。機能というよりは、「環境適応能力を評価した」ということが適切であると考える。

 在宅生活で求められる能力は、「認知神経心理学的検査によって測られるもの」というよりは、生活の中で「工夫し、うまく生きていく力」である。「生きていく力」とでもいうべきものである。在宅リハにおいてはこの力を評価し、この力を引き出すことが求められている。CBAは、まさにこのような力を評価する評価表である。「機能」に固執することなく、行動から適応能力を見つけていく。うまくCBAを用いることで、生活の必要な力の発見と向上につながっていってほしいと考える。

 

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